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Home : 出さない手紙について
森閑
■四、雨降り■

 曇り空だったが、少女は母について卵を売りに行った。
 そして男は森へ行った。
 ――彼女と父はどういう関係だったのだろう。二人の間で、何があったのだろう。
 それは考えても、全く答えの出ないことだった。
 少女が来て三日目。母の機嫌は悪くなる一方だ。男は母がどうして機嫌が悪くなるのかわからなかった。今はその二人が一緒に村まで出かけている。少し心配だ。
 しかも空は灰色を強めている。
「雨が降らなきゃいいんだけどなぁ」
 がさっと、葉(は)擦(ず)れの音がして、前方を兎が逃げていった。
「あ」
 獲物を逃がしてしまった。今日は、集中ができない。
 そのころ、卵を売り終え、塩を買った母は、少女とともに家路を急いでいた。
「なるべく早く帰らなきゃ、雨が降るわ。洗濯物は干したままだし」
 母はそう呟いていたが、少女に対して言ったわけではなかった。少女には重い塩を持たせてはいるが、今朝から会話はしていない。少女からも話しかけてはいない。
 どちらも気まずい。草の生えた道は歩きにくい。そんな道を、あと一時間と少し、歩かなければならない。いろんな意味で、疲れる。一時間と少しは、二人にとって、何時間だろうか。
 ぽつりぽつりと、雨が降り始めた。
「雨が……」
 少女は塩の入った袋を抱きかかえた。
「走って。少し先の木の下で雨宿りをしましょう」
 母は振り返りもせずに、大きな木まで駆けていった。少女も重い塩を何度も抱え直しながら、木まで走った。
 木は二人が顔を合わせずに雨宿りできるほど幹が太く、枝は広く分かれ、葉は茂っていた。緑の葉は、この天候で、黒ずんで見える。雨は木陰の外で轟音をたてながら降っている。
「すごい雨ですね」
 少女は、木の裏側にいる母に言った。しかし、返事はない。この雨音でかき消されているのだろうか。無言で雨を見続けるのも、少女にとって苦痛だった。平気なふりは、あくまでふりだった。彼女は無理矢理に居座っているが、好きでそうしているわけではない。
「ねえ、あなた……」
 母の声が聞こえた。雨音は、木陰の中の音まで消すことはないようだ。
「あの人と、何があったの」
 少女は、ゆっくり目を閉じた。話さなければならない。まだ話していないのは、話すのが怖くて、逃げているからだ。
 雨が空から流れ落ちる。少女は、雨音を吸い込むように、深呼吸をした。
「最後まで、聞いてくれますか」
 木の隔たりのおかげで、顔を合わせて話さなくてもいい。今なら、言えそうだ。
「聞くわ」

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