Home : 出さない手紙について
白い砂漠
【1】

 白い砂漠。青空からぎらぎらと照りつける白い光。この灼熱の中、生き物が住むのは難しかった。
 そんな砂漠の真ん中に国があり、街があり、城があった。それは魔法という、奇跡。
 国の下には、東西を流れる水脈があった。そのため、国も東西に広がった、楕円形をしていた。
 国の中心は、美しい城だった。城の形は丸いドーム型で、砂を固めて造っている。砂漠と同じように、純白の城だった。二階建てで、壁を丸くくりぬいただけの、ガラスのない窓がいくつもあり、常に乾いた風が城の中を通り抜けていた。
 城に住むのはこの国を治める王の一族。特徴的なのが、茶の髪に青い瞳。これが王族だとわかる目印のように、どんなに血が混じっても、この二つの特徴は子孫に遺伝した。
 中でも、今の王の末娘は澄んだ空のような瞳だった。髪の色も、太陽に透かせば金の色をしていた。白を好んで、白い服をよく着ていた。格式張った服装を好まず、誰もが気軽に着るような、ワンピースを着ていることが多かった。短く言えば容姿端麗で、誰もが美しいと言っていた。彼女自身はその美しさに気づいていなかった。
 彼女のほかにも、王の子供は四人いた。男が二人、女が二人。兄姉たちは、あまり美しくなく、顎はとがり、目は猫のように鋭かった。貧相だった。
 末娘が将来女王になることは有り得なかった。兄や姉に比べて周りから何かを期待されるというわけでもないので、ストレスもさほどなかった。そのため、ぎすぎすしていないのかもしれない。その娘の名は砂雪(さゆき)。雪の降らないこの地の、雪のように白い砂にちなんで王が付けた名前。この物語の主人公。
 街の中も純白の建物が、大小不規則に並んでいた。城とは違い、角張った四角い家が多い。建てやすいためだろうか。
 細かな区画整備はされていなかったが、大雑把に役割ごとの地区は分けられていた。商業区、工業区、農業区、そして、魔法区。役所類は、城の近くにかためられていた。
 この砂漠の中で、国が栄える理由は一つ。魔法があるからだ。魔法によって、吹き付ける砂や日差しを和らげていた。目に見えない、祈りに近い魔法で、彼らは砂漠で生きることを許されている。
 そんな、魔法を使える国の人々は、人の形をしていて、人ではなかった。耳だけは、獣のように大きく、先がとがって、細かな毛で埋まっていた。一部の人は、その耳で見えない神や精霊の類の言葉を聞き取り、魔法を唱えているのではないか、と考えている。彼らの聴力は、人の形をしているどんな種族よりも優れていたのでそれも有り得る。神の声や、自然の小さな囁きも当たり前に聞こえているのかもしれない。
 魔法は生きる環境を整えるだけでなく、目に見える敵からも国を守っている。他国を攻めるために魔法は使われていない。つい、十数年前まで、戦争は三年間隔で起こっていた。この国の位置が、商人や旅人の立ち寄る位置にあるのが一つの理由だった。また、水脈の上にあったのも理由だった。
 戦いが終わったのは、何度攻めても、この国が屈しなかったからだ。周りの国が、諦めてしまった。

NEXT≫

template : A Moveable Feast