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カスタマイズ・ドール
[2] 君に憧れてた

 佐山は今年の春、僕の通う学校に転校してきた女の子だ。
 僕は、彼女が遠慮がちに教室へ入ったときから、直感で彼女は何か違うと思った。何がどう違うのか形容しがたいが、とにかく周りの人間とは違う。
僕があまりに凝視していたためか、その視線に気付いて、教室に入ってきたばかりの佐山とはすぐに目が合った。僕は何とも心地の悪い気持ちにとらわれて、さっと目を逸らしてしまった。
「佐山日和といいます。よろしくお願いします」
 深々と彼女はお辞儀をし、自分の席に着いた。教室中がざわざわとしていた。
 佐山は美しかったのだ。均整の取れた顔とモデルのような体型の組み合わせで、真新しいセーラー服を着ているのにはかえって違和感があった。目を逸らしたものの、僕もつい、見遣ってしまっていた。
「佐山さん、和服が似合いそう」
「あ、そうそう、日本人形みたいで」
 佐山は、休み時間になるとすぐに寄ってきたクラスメイトたちをじっと、無表情に見ていた。
「日本人形って言っても、いい意味でね。佐山さんは美人だから」
「ありがとう」
 ふっと、彼女は微笑んだようだった。クラスメイトたちも笑って、何かをしきりに話しかけていたが、僕はそこまで観察しなかった。
 しばらく、佐山を迎えた新しいクラスで生活をしたのだが、僕の佐山に対する最初の印象は変わらなかった。佐山の動きは遠慮しがちなのか、人をうかがっているのか、いつもごくわずかなテンポで、遅いように思う。それでいて、彼女の一つ一つの振る舞いは、欠点がない。勉強も、運動も何一つミスがない。テンポが遅いのは、それらを行動するまでに緻密な計算をしているからではないか。そんな彼女を包む空気は、僕と同じ時間が流れていないように感じた。
 そこまで観察をする僕は、佐山のことが気になっていたのだ。彼女には、何か秘密があるような気がした。そんなことを考えていると、「日本人形」という言葉を思い出したのだ。彼女が人工的なものなら、説明ができるような気がした。緻密な計算で造られたような姿形や、その振る舞いに対して。
 だから僕は彼女に問いつめた。すると、佐山はあっさりと僕に、自分は人形なのだ、と教えてくれた。
 僕は佐山が人形なのだと知っていながら、綺麗な彼女に恋をしてしまっていた。
 そして今、僕の右手は、佐山の左手を握りしめている。
「僕は人形になりたいんだ。君と同じになってしまいたいよ」
「そんな。わたしは人間になりたいのに。いつまでも人間のまがい物であり続けるのはつらいの」
 僕の願いと、佐山の願いは逆だった。だから、提案した。
「一緒に逃げよう」
 どうして、逃げようと言ってしまったのか、僕自身、よくわかっていない。一緒に暮らそうとか、旅に出ようといった、もっと別のことを言えていたはずだ。そんなことを言ってしまったのは、これはあくまで、現在のどうしようもない状況からの逃避でしかないからだろう。僕は彼女と一緒にいたかった。
 佐山のひんやりとした手を握りしめて、住んでいた町を出た。彼女は何度も後ろを振り返って、心配そうな顔をしたが、僕の顔を見るたび、微笑んだ。
 分厚い雨雲から、今にも雨粒が落ちてきそうだった。
 人気のない無人駅に降りて、僕は佐山を抱きしめた。きゅうと、硬質な物のきしむ音がした。彼女の内側から、静かに歯車の回る音もする。僕は、得体の知れないものを抱きしめている気がした。そして僕自身、歯車と同じ早さで脈を打ち、震えていたのだ。
 全てが白くなるほどの稲光がし、間もなく雷鳴が轟いた。空が割れ落ちるような感覚がして、僕は佐山をいっそう強く抱きしめた。佐山はされるがまま、じっとしていた。
「このまま入れ代われたらいいのに」
 僕は佐山に同意してほしかったが、佐山は何も言わなかった。その代わり、「どうしてわたしはここにいるのかしら」と、ぼそぼそ言った。彼女の声は僕の体に、震えながら伝わった。それは、今ここにいることへの疑問とも、自分自身の存在への疑問とも受け取れた。
「そんなこと、今考えても仕方がないじゃないか……」
僕がまだ言葉を続けようとしたら、佐山が遮るように「お願いがあるの」と言った。
「何?」
「わたしと同じような人形が、あるそうなの。わたしはその人形に会ってみたいの」
「そうだね、いいよ。これから行くところなんて決めていなかったから、行ってみようか」
 僕の耳元で、佐山は「ありがとう」と冷たく囁くと、人間がするように、両腕で優しく抱きしめてきた。それに殺意がないのは分かっていたが、恐怖に似た違和感を僕は覚えた。

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