可愛い彼女と、街をちょっと自慢気味に歩く。お金は無いに等しくて、立ち並ぶ綺麗な店の中には足を踏み入れられないけど、一緒に歩いているだけで十分楽しい。咲子は、遠慮気味に俺の腕に手をかけている。でも咲子の視線の先は店ばかりで、俺がちゃんと歩いていないと人にぶつかりそうだ。
疲れたら、よそ見ばかりしている咲子を駅前の公園へ案内する。日当たりのいいベンチに、距離を置き気味にお互い座る。咲子はなぜかいつもバッグの中にお菓子をたくさん入れていて、こんな風に座っているとごそごそ出してくるのだ。そして、俺と彼女の隙間を埋めるようにすり寄ってきて、お菓子を渡してくる。
「ねえ、これ飲める?」
でも今回、咲子がバッグから出したのはスナックでもチョコでもなかった。彼女の掌にはガムシロップが二つ。
「無理無理」
俺は手を振った。すると咲子は残念そうな顔をした。
「美味しいのに」
「甘いだけ」
「飲まなきゃわからないよ」
咲子は一つ、ふたを剥がして一気に飲み干した。見ているだけで自分の中にも甘さが浸みてくるような気がした。俺が嫌そうな顔をしたのに、咲子はなぜか笑った。
「幸博君はいつも格好つけすぎ。そういう顔見てる方が楽しいかも」
俺と咲子は付き合って二月だった。まだそんな部分があるのも自覚していた。でも、彼女に指摘されると恥ずかしい。俺は自分の顔が赤くなっていないか、非常に気になる。
「わたしは幸博君に自分のこと知ってほしいし、幸博君のことを知りたいな。だから、これ飲んでよ」
どうしてそれがシロップ一気飲みに繋がるのかわからなかった。
でも俺は、銀色のふたを剥がして、とろとろの砂糖水を口に流し込んだ。濃厚な甘さが口の中の水分まで奪っていきそうだ。甘い。ただそれだけで、何のにおいも無い。そのまま吐いてしまいそうな俺は、目をつむって飲み込んだ。喉がぎゅっと砂糖漬けにされた気がした。
「どう?」
口の中に、かすかに甘みが残っている。胸のあたりでむかむかする。
「不味い」
「うん。甘すぎるよね」
咲子は急に俺に抱きついてきた。
「分かち合って、同じ気持ちになりたかったの」
「え?」
「同じ時に、同じことをして、同じ気持ちでいたいの。幸博君のことがよくわからないから、せめて。……嫌いにならないでね」
そういうわけか。今一つ腑に落ちないけど、こうしていられるのなら別にいい。彼女から、まだ名前も知らない香水の匂いがする。子供っぽいのに、急にどきっとさせる。
俺は咲子の首に手を回して、ちゃんと聞こえるように、好きだよ、と言ってやった。